Newsweek

木村正人

欧州インサイドReport

英国はもう「帝国気取り」で振る舞うのは止めた方がいい 駐米大使が「トランプ大統領は無能」と酷評

2019年07月10日(水)08時30分

    それとも英米「特別関係」に不信感を植え付けるためのロシアの陰謀なのか。トランプ大統領の正当性を損ねるための英米情報機関の合作なのか。真相は分からない。

    今回の騒動は、英大衆日曜紙メール・オン・サンデーが6日夜、電子版で「ダロック大使がトランプ大統領には適性がない、危なっかしくて無能と本国に打電していた」と極秘扱いの外交公電をスクープしたのが始まりだ。

    「トランプはターミネーター」

    ダロック氏は英国トップ級の外交官の1人で「米ホワイトハウスは他に比べるものがないほど機能不全に陥っている。トランプ氏のキャリアは不名誉な形で終わる恐れがある」と本国に警鐘を鳴らしていた。

    外交公電にはトランプ大統領への辛辣な言葉が並んでいる。「我々はトランプ政権が正常化するとも、少しでも機能を取り戻すとも、予測可能になるとも、内部対立が収まるとも、外交的で適切になるとも全く思っていない」

    「スキャンダルまみれの人生を送ってきたトランプ氏は映画ターミネーターのラストシーンのアーノルド・シュワルツェネッガーのように炎の中で溶解しながらも損なわれないのかもしれない」

    「自分の情報源によると、ホワイトハウス内には『ナイフを使ったケンカ』のような深刻な対立がある」「トランプ氏は『危険なロシア人』の恩恵を受けている」

    「トランプ氏の経済政策は世界の貿易システムを難破させてしまう恐れがある」「スキャンダルまみれのトランプ氏はクラッシュして炎上する恐れがある。我々は不名誉と没落に終わる下降スパイラルの始まりにある」「トランプ氏はイランに攻撃を仕掛ける恐れが依然としてある」

    駐米日本大使の外交公電がこんな形で漏洩したら安倍晋三首相にとって悪夢としか言いようがないが、英国はもう他国のことを批判するより自分の振る舞いを見直した方がいい。自分の都合でEUに散々迷惑をかけているばかりか、ブレグジット党議員団は欧州議会をひどく侮辱した。

    逃亡犯条例を巡る香港の大規模デモに関しハント外相が懸念を示したことについて、劉暁明・駐英中国大使は異例の記者会見を開いて「香港はもはや英国の植民地支配下にはない。香港の問題は中国の内政でいかなる国や組織、個人の干渉も受けない」と抗議した。ハント氏には保守党党首選を意識して軟弱な姿勢を見せられないという事情があった。

    英国内ではダロック大使をもう相手にしないとツイートしたトランプ大統領を批判する声が出ているが、本末転倒もいいところだ。今回、問題を起したのはトランプ大統領ではなく、英国の側だ。

    メイ首相が政治的に終わっているにもかかわらず、エリザベス女王の招きに応じて英国を公式訪問したトランプ大統領はいつもの彼らしくなく紳士的に振る舞った。非は100%、英国側にある。

    英国はEUや中国、米国との関係を損なってもやっていけると自惚れているのだろうか。今回、強硬離脱派が「合意なき離脱」誘導のためにトランプ大統領を巻き込む形で外交公電をリークしていたとしたら、もはや英国は救いようがない。

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    プロフィール

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    木村正人

    在ロンドン国際ジャーナリスト
    元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
    masakimu50@gmail.com

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