Newsweek

六辻彰二

塗り替わる世界秩序

成果が問われる安倍首相のイラン訪問――何をもって「成功」と呼ぶか

2019年06月12日(水)11時55分
    成果が問われる安倍首相のイラン訪問――何をもって「成功」と呼ぶか

    ペルシャ湾に派遣されているアメリカ海軍の空母エイブラハム・リンカーン(資料) REUTERS


    ・アメリカとイランの緊張が高まるなか、安倍首相は仲介のためイランに向かう

    ・安倍首相にできる最大限のことは、アメリカとの直接対話をイランに約束させることである

    ・しかし、イランにとってそれを呑むことは難しいうえ、直接対話が実現しても協議の難航が予想される

    安倍首相はアメリカとの緊張緩和を働きかけるためイランに出発するが、仲介は困難とみられる。今回の訪問で、安倍首相はどこまでやれれば「成功した」といえるのだろうか。

    何をもって「成功」と呼ぶか

    6月12日、安倍首相は緊張が高まるアメリカとの仲介のため、イランに出発する。2015年に結ばれた、イランの核兵器開発を禁じた核合意を「弾道ミサイルなどが規制されていないのは不完全」とみなすトランプ政権が一方的に破棄し、軍事的・経済的圧力を加え、これに対抗してイランが低濃縮ウランの製造を加速させていると国際原子力機関(IAEA)が報告するなど、緊張がエスカレートするなかでの訪問になる。

    今回のイラン訪問は、5月末に来日したトランプ大統領に安倍首相が提案したものだ。トランプ大統領の懐に入り込み、「アメリカにモノが言えるのは日本だけ」とアピールすることで自分の存在感を増そうとしている安倍首相は、今回のイラン訪問で大いにアメリカに恩を売りたいところだろう。

    いずれにせよ重要なのはイラン訪問の成果だが、そもそも何をもって「成功した」と呼べるのだろうか

    安倍首相にできること

    まず、「戦争を回避するべき」といった原則論に終始するだけでは、イランまで行ったというアリバイ作りにはなっても、「成功した」部類に入らない。それだけでイランが納得するはずがないからだ。

    先述のように、今回の危機はアメリカがイラン核合意から一方的に離脱したことでエスカレートしてきた。アメリカにブレーキを踏むよう促していない日本が、自衛に向かうイランにだけ矛を納めるよう求めても説得力がない。

    かといって、核合意から離脱したアメリカに何も言わない以上、日本がイランに核合意の維持などについて具体的な提案もできない。そもそも日本は2015年の核合意に参加していない。この点で、安倍首相に先立って10日にイランを訪問したドイツのマース外相が、核合意の参加国として、合意の堅持をイラン政府に呼びかけたこととは対照的だ。

    したがって、ロイター通信などが指摘するように、安倍首相にできる最大限のことは、第三国などでアメリカとイランが協議することを促すことだろう。そのために、6月末のG20大阪サミットにイランのロウハニ大統領などを招待して、アメリカとの協議の場をセットするといった可能性も取り沙汰されている。

    イランはアメリカとの協議を受け入れるか

    ただし、安倍首相がアメリカとの直接対話を促すとしても、イラン政府がこれを受け入れるかは不透明だ。

    プロフィール

    プロフィール

    六辻彰二

    筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

    注目のキーワード

    注目のキーワード

    ニューストピックス

    本誌紹介

    特集:人生を変えた55冊

    本誌 最新号

    特集:人生を変えた55冊

    コロナ自粛の夏休みは読書で自分を高めるチャンス──世界と日本の著名人が教える「価値観を揺さぶられた本

    ※次号は8/18(火)発売となります。

    2020年8月11日号  8/ 4発売

    人気ランキング

    • 1

      マオリ語で「陰毛」という名のビール、醸造会社が謝罪 

    • 2

      「元徴用工」の主張に違和感を感じる人たち

    • 3

      バイデン陣営はこれで「ターボ全開」? 副大統領候補ハリス指名の意味

    • 4

      韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪…

    • 5

      「韓国・文在寅の最低賃金引き上げは失策」説を信じるな…

    • 6

      李登輝前総統の逝去報道──日韓の温度差

    • 7

      日本初のアフリカ人学長が「価値観」を揺さぶられた5…

    • 8

      新型コロナワクチンが開発されても、米国の3人に1人…

    • 9

      相模原障害者殺傷事件、心底恐ろしい植松聖死刑囚の…

    • 10

      ベトナム、日本には強硬だが、中国には黙る韓国政府…

    • 1

      ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死

    • 2

      中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?

    • 3

      韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる

    • 4

      トランプTikTok禁止令とTikTokの正体

    • 5

      マオリ語で「陰毛」という名のビール、醸造会社が謝…

    • 6

      李登輝前総統の逝去報道──日韓の温度差

    • 7

      バイデン陣営はこれで「ターボ全開」? 副大統領候…

    • 8

      『レオン』が描いた少女の性と「男性目線」

    • 9

      「元徴用工」の主張に違和感を感じる人たち

    • 10

      陽性者急増、名古屋の医師が懸念する「市中感染」の…

    • 1

      コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず

    • 2

      中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?

    • 3

      中国から米国に「謎の種」が送りつけられている......当局は「植えないで」と呼びかけ

    • 4

      韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット …

    • 5

      ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死

    • 6

      宇宙観測史上、最も近くで撮影された「驚異の」太陽…

    • 7

      アメリカが遂に日本政界の媚中派を名指し批判──二階…

    • 8

      戦略性を失った習近平「四面楚歌」外交の末路

    • 9

      中国のスーパースプレッダー、エレベーターに一度乗…

    • 10

      【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスク…

    もっと見る

    Picture Power

    レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

    【写真特集】幸せを探してスクールバスのわが家は走る