Newsweek

冷泉彰彦

プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

全てが期待以上のバイデン就任式に感じる1つの「疑念」

2021年01月21日(木)15時20分
    全てが期待以上のバイデン就任式に感じる1つの「疑念」

    就任式ではトランプを除く歴代大統領が親密な様子を見せたが…… Patrick Semansky-POOL-REUTERS

    <仮にバイデン政権がトランプ時代の疑惑を「不問」にしようとすれば、民主党左派はそのような幕引きは許さない>

    バイデン大統領が就任しました。4年に1度の就任式は、パンデミックのために無観客だったのと、事件を受けた厳戒態勢を別にすれば、全てが伝統に従って行われました。14日前に乱入事件があった連邦議会議事堂は、美しく修復されていましたし、式典も見事でした。分断からの和解を訴える大統領の演説も良く練られたものでした。

    その全てが「こうあるべき」というスタイルに収まっており、またその全てがちゃんと期待を上回っていました。ですが、その式典を通じて、一つの疑念を感じたのも事実です。あくまで仮説に過ぎませんが、とにかくある一つのストーリーを気配として感じたのです。

    それは、アメリカという国はその深層における国家意思として、トランプの4年間を「なかったこと」にすると同時に、ドナルド・トランプという人物と「秘密の取引」をしているという可能性です。

    取引というのは、つまり彼が今後、政治的な影響力を行使しない、とりわけ極右グループと手を切るということを確約する代わりに、家族も含めて訴追をしないという密約です。弾劾決議については、下院で決議された弾劾は取り消せませんが、上院での承認はどこかの時点でウヤムヤにするか、コッソリと否決して済ますという可能性も感じます。

    トランプ退任の奇妙な演出

    まず、この日の就任式への出席をトランプは拒否しました。そして、一部の支持者を集めた退任式典をやって、家族ともどもフロリダへ去ったのです。その去り方は奇妙なものでした。

    まず、就任式の当日朝、午前8時48分にトランプ夫妻は、「大統領としての最後のフライト」に搭乗すべく、タラップを上がって大統領専用機「エアフォース・ワン」のコールサインをアサインされた747機の機中に姿を消しました。全く同じ時刻に、バイデン大統領は宿泊所としていた国の迎賓館である「ブレア・ハウス」から専用車で朝の礼拝に向かったのです。まるで示し合わせたかのような演出でした。

    その約2時間半後の11時5分。式典会場ではペンス前副大統領(その時点ではまだ現職)夫妻が入場し、一同の拍手で迎えられていましたが、その全く同じ時刻にフロリダに着いた「エアフォース・ワン」のドアが開いたのでした。

    些細な演出かもしれませんが、これは単に「就任式に出席し、ホワイトハウスで出迎えをする」のを拒否した変人大統領が、タダで専用機を使える午前中のうちにフロリダへ去ったというだけではなく、もっと深い意味があるように感じられました。それが、2つの時刻をピタッと合わせた演出につながったのではないか、そう思わせたのです。

    そう考えると、バイデン新大統領が演説の中で繰り返し言っていた「和解」とか「癒やし」あるいは「分断を終わらせる」という言葉にも、単なるメッセージを超えた政治性が感じられたのでした。

    プロフィール

    プロフィール

    冷泉彰彦

    (れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

    最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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