Newsweek

政治

ミャンマー、与党法律顧問暗殺事件の犯人2人に死刑判決 真相解明を阻む軍部の存在

2019年2月17日(日)21時28分
大塚智彦(PanAsiaNews)

    1988年以降死刑執行のないミャンマー

    死刑判決は判決から1週間以内、懲役刑は判決から60日以内に控訴することが可能だが、被告弁護側は「被告側はこれまでのところ控訴の予定はなく、あとは被告家族次第である」としている。というのもミャンマーでは1998年に執行された死刑(絞首刑)を最後に執行例は報告されておらず、あくまで象徴的な極刑の側面が強いから、といわれている。

    こうした「形式的だけの死刑判決」「事件を主導したとされる容疑者の逃走」「被告に元軍人が含まれている」などから、人権団体などは暗殺事件への軍の関与とその後の裁判への軍の影響を指摘する声も出ている。

    コー・ニー氏の息子タン・ジン・オー氏は判決後「被告らにはまだ控訴の機会もあり、今後の経緯を見極めたい」と判決そのものへのコメントを避けた。

    国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本拠地ニューヨーク)のアジア担当フィル・ロバートソン氏はメディアに対して「ミャンマー政府は主犯格とされるカイン容疑者の発見逮捕に全力を尽くすべきである。カイン容疑者が自由の身でいる限り、この事件に対する正義が実行されたとは言えないからだ」と述べている。

    コー・ニー氏はNLDの法律顧問を務め、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相とも親しかったこともあり、スー・チー顧問は同氏暗殺事件の真相解明を強く求めていたといわれている。

    そうした背景があっても今回の判決が示すように、全面的な真相解明には至っていないということが、ミャンマー国内でのスー・チー顧問と軍のパワーバランスが依然として微妙な関係にあることを浮き彫りにしている、との見方が有力だ。


    otsuka-profile.jpg[執筆者]
    大塚智彦(ジャーナリスト)
    PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

    注目のキーワード

    注目のキーワード

    ニューストピックス

    本誌紹介

    特集:コロナ不況に勝つ最新ミクロ経済学

    本誌 最新号

    特集:コロナ不況に勝つ最新ミクロ経済学

    意思決定の深層心理から人間の経済行動を読み解く── コロナ不況を生き残るため最新の経済学を活用せよ

    2020年6月 2日号  5/26発売

    人気ランキング

    • 1

      北朝鮮の民間経済を圧迫する独裁者の国債

    • 2

      東京都、新型コロナウイルス新規感染15人 2桁台で3日連続増加

    • 3

      東京都、新型コロナウイルス新規感染11人 2日連続で2桁に

    • 4

      ブラジルのコロナ無策は高齢者減らしのため?

    • 5

      新型コロナの死亡率はなぜか人種により異なっている

    • 6

      ギター人気復活を導く「スーパークール」な和製ギター

    • 7

      「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がア…

    • 8

      コロナショックで孤立無援のイタリアが恨み節──加速…

    • 9

      米、香港への優遇措置もはや継続できず 中国による…

    • 10

      NEWS手越祐也「活動自粛」に見るジャニーズ事務所の危…

    • 1

      過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 背景には韓国の国民性も?

    • 2

      東京都、新型コロナウイルス新規感染14人に急増 緊急事態宣言解除の目安、3項目中2項目が基準下回る

    • 3

      「イギリスが香港のために立ち上がらないことこそ危機だ」パッテン元総督

    • 4

      カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男…

    • 5

      「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がア…

    • 6

      新型コロナの死亡率はなぜか人種により異なっている

    • 7

      日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいってい…

    • 8

      気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言し…

    • 9

      新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領

    • 10

      北朝鮮の民間経済を圧迫する独裁者の国債

    • 1

      「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

    • 2

      気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること

    • 3

      金正恩「死んだふり」の裏で進んでいた秘密作戦

    • 4

      スズメバチが生きたままカマキリに食べられる動画が…

    • 5

      過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 …

    • 6

      優等生シンガポールの感染者数が「東南アジア最悪」…

    • 7

      コロナ禍で露呈した「意識低い系」日本人

    • 8

      日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいってい…

    • 9

      コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

    • 10

      ロックダウンは必要なかった? 「外出禁止は感染抑…

    もっと見る

    Picture Power

    レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

    【写真特集】金融エリートたちの意外と普通な苦悩