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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

トルコがイラク国内で軍事作戦を展開、その目的とは?

イメージ画像 ©aliunlu - iStock

2020年6月頃からここイラク北部で、隣国のトルコ軍による空爆や砲撃が頻繫に行われています。

クルド系共産主義ゲリラのクルド労働者党(PKK)をターゲットに、トルコ語で"Pençe-Kartal Operasyonu(タカのかぎ爪作戦)" という空からの作戦と"Pençe-Kaplan Operasyonu(トラの爪作戦)"という地上部隊による攻撃が行われており、イラクの地元メディアでもしばしば民間人の死傷者や攻撃に反対するイラク国内のデモなどが報じられていましたが、ここ数ヵ月、攻撃がさらに激しくなりメディアを騒がせています。

  

トルコ政府とPKKの長年の紛争

トルコの人口の約15-20%を占めると言われるクルド人ですが、オスマン帝国の崩壊と1929年のトルコ共和国の成立により、長年「トルコ化政策」のターゲットとされてきていました。

1970年代に創設された共産主義をイデオロギーにもつクルド労働者党(PKK)は、クルド人の権利向上と将来的な独立(現在は自治権獲得に政策転換)を目標にトルコ国内で暴力的な運動を展開していました。

特に1980年の軍部によるクーデターとそれに続く急進的なトルコ化政策(クルド語やクルドの歌、クルドの伝統衣装といったクルド文化の禁止)が行われると武装蜂起。それ以降、トルコ国内を中心にテロ活動を展開させていました。

しかし1995年より、トルコはイラク北部の山岳地帯に潜むPKK構成員をターゲットに公式には初めて大規模な越境作戦を展開するようになりました。("鉄の作戦")

その後も1997年("ハンマー作戦"と"夜明け作戦")、2008年("太陽作戦")には大規模な侵攻が行われました。

トルコ、イラク、そしてシリア。この40年近い紛争で少なくとも40,000人が亡くなったと推測されています。

  

ここ最近の越境攻撃

2020年から続く大規模作戦で、今年もすでに少なくとも400回の越境攻撃がイラクで行われています。

これらの越境攻撃でイラク国内では少なくても7名の市民が亡くなり、その他多数の市民にけが人が出ており、20の村々から人々が退去させられる事態となっています。

また9月4日に行われた空爆では化学兵器が使用されたのではとの報道もされています。

被害はトルコ軍側にも出ています。

先月8月にはPKK側の迫撃砲でトルコ軍兵士が一人亡くなっています。また同月には爆弾により3名のトルコ軍兵士が殺害されています。

また2021年2月に行われた作戦では、PKKが捕えていたトルコ人捕虜13名の救出が目的でしたが、作戦の最中に全員が死亡しました。(トルコ側はPKKが捕虜を処刑したと主張)

   

攻撃に対する非難の声が高まっている

イラク市民へも被害が出ていることも受け、イラク北部のクルド自治政府、イラク中央政府ともにこのトルコによる主権侵害を度々非難する声明を出しています。

特にイラク中央政府は、2020年8月にトルコ軍の空爆でイラクの国境防衛部隊兵士が殺害されたこと、さらに今年の8月に少数宗教ヤジディ教徒の人々が暮らすシンジャール地方の病院が空爆され3名が殺害された際に攻撃を非難する声明を出しています。

攻撃の激化を受け今年の8月には、イラク復興を担う国連ミッション「国連イラク支援団(UNAMI)」も、トルコ軍の攻撃に対して非難声明を発し、市民への被害を最小限にとどめる最大限の努力と、被害に対する調査を求めました。

イラク中央政府もクルド自治政府も、トルコは友好国であり経済的な繋がりも強く、強い非難はできないという事情があります。特にクルド自治政府はイデオロギーの違いから同じクルド人であってもPKKとは対立しており、トルコ軍の越境攻撃を容認してきたという背景がありました。

しかしイラク国内でもトルコ軍の攻撃による市民への被害は「一線を越えた」と見られるようになり、ここ数ヵ月で市民はもとより政府の中でも批判が強まってきています。

またここ半年ほど、軍事作戦に対するトルコとイランの関係性にも変化がみられつつあります。

国内にクルド人の分離主義勢力を抱える身として、トルコとイランはここ最近までクルド人に対する政策では比較的協調路線を張ってきました。

過去にはクルド人に対して共同で軍事作戦を行ったこともあります。

しかしイラク国内に自国の影響力を持つシーア派民兵組織を持ち、一定の軍事的プレゼンスを持つようになったイランも、ここ数ヵ月はトルコに対して「イラクの主権を尊重するように」と度々駐イラク・イラン大使を通してトルコに釘を刺すような発言をしています。

イラクを巡ってのトルコとイランの関係性の変化にも今後は注目をする必要があるかと思います。

非難が強まっているとはいえ、トルコ政府は強気の姿勢を崩していません。5月にトルコ軍部が出した声明では、「自己防衛の権利のもと、南部の国境地域の安定が達せられるまで作戦を続行する」と発表しました。

この越境攻撃により、これ以上イラク市民に被害が出ないことを祈る日々です。

 

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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