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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

アメリカでも増える自殺 ~連鎖自殺を防ぐ取り組み(1)

(出典) https://pixabay.com

 日本での芸能人による相次ぐ自殺のニュースがこちらでも報道されているが、アメリカでも自殺は増えており、深刻な社会問題となっている。著者の子どもの通う学区でも毎年数人が自殺により亡くなり、そのたびにコミュニティに喪失感が広がっていく。希死念慮(死にたいと思うこと)を訴えるクライアントも増えるので、自殺予防の取り組みが必須となる。

 米国国立精神衛生研究所(NIMH)の調査によると、1999年から2018年の過去20年間でアメリカの自殺者はは全体で10万人中10.5人から14.2人へと35%増加している。とくに、芸能人など知名度のある人、または家族や友人など近い存在の人が自殺した場合は多大な影響を受けやすく、連鎖的に自殺が起こる危険性が高い。

 連鎖自殺を防ぐためにどのような点に注意すればいいのだろうか。まず、影響を受けやすいハイリスクの人たちには、以下のような人があげられる。

・自殺した人を直接知っている人

・自殺した人を心理的に近い存在と感じていた人

・以前に家族や親戚、友人を自殺で亡くしている人

・不安やうつ傾向のある人

・希死念慮のある人

・以前に自殺未遂をしたことのある人

・自殺した人と死ぬ直前にやりとりがあった人

 こうしたハイリスクの人たちをいかに早期に発見して支援することが重要となる。同じコミュニティで自殺があった場合は、学校や会社でアンケートを行い、早期にハイリスクの人たちを見つけることが必要だ。アメリカの初期診療でよく使われる審査にはPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)があり、日本語訳も出ている。

PHQ9.png

 PHQ-9の結果が10点以上の場合はうつ病の可能性が高く、カウンセラーやかかりつけの医師などにさらなる診断を要請するなどの介入が必要になる。おおまかに、20点以上は重度、15点~19点はやや重度、10点~14点は中度、5~9点は軽度のうつ病の可能性があるとされている。

 とくに、若者は芸能人や身の回りの人の自殺の影響を受けやすいと言われている。米政府機関の自殺予防リソースセンター(SPRC)では、学校向けの生徒が自殺した場合の詳細なガイドラインを発行しており、対応チームの編成から生徒の心のケア、コミュニティやメディア、ソーシャルメディアへの対応などの具体的な対策を提示している。

SuicideToolkit.png

 同ガイドラインによると、生徒の死について知らせることは全校集会などの大きな場所では行わず、各教室などで小規模に行うこと。また、亡くなった生徒のいたクラスで話をする際には、学校に常駐している心理学者やスクールカウンセラー、ソーシャルワーカーなどの専門家が同席することも勧めている。ちなみに、学校の心理学者は、スクールカウンセラー、生徒や保護者から学業面や精神面での悩みを聞き出し、その生徒を診断して必要に応じて個別に特別教育を提供するための個別教育計画書「IEP(Individualized Education Program)」などを作成する。

 また、自殺予防に関する正しい知識を学校の先生や職員が共有し、タブー視せずに生徒に伝えることが重要だ。想定される質問にどう答えるのかを事前に話し合い、サポート体制を整えること。自殺予防のパンフレットなどがあればそれを生徒にも配布して、喪失感、孤独感、無価値感などを感じるのはごく自然なことであり、それを抑え込む必要はないことを伝え、悲しい気持ちを表現できる安全な場所を作ってあげることが重要だ。

 次回は、希死念慮を持つ人に対する自殺予防の効果的な方法「安全計画」について取り上げる。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするため大学院で心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える多くの子供やティーンエイジャーに対してセラピーを提供している。

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