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ヴィズマーラ恵子|イタリア

カトリック総本山のお膝元イタリアで起こっている話題のザン法を解説

iStock-sasirin pamai

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| イタリアの「ザン法案」とは

LGBT活動家で政治家のアレッサンドロ・ザンの名前をとって「ザン法案」と呼ぶ。ザン氏によって提案されたこの法律改正及び条文の修正・追加の目的は、ヘイトクライムに関する法律をLGBT +コミュニティ、女性、障害者に対する差別や暴力を扇動する行為を処罰し、法的保護を与えようというものである。保護対象者へのヘイトクライム(憎悪犯罪)や差別で有罪となった場合には、最高で4年の禁錮刑が科されるという。

犯罪とヘイトスピーチに関する現在の法的枠組みの中に性的指向と性同一性を挿入することを提案しており、刑法の変更に触れるデリケートな問題は、25年間に渡ってイタリアで議論されてきた。

実際に何を言っているのかについて、多くの混乱を引き起こした。
明確には、ザン法案によって要求される既存の法律への3つの主要な変更を加え範囲を拡大しようとするものであった。

【法律の主張ポイント】

⭕️最初の修正は、差別ベースでは「性別、性的指向や性自認や障害者へ」という文言を604 -ビスへ、そして604-TERの刑法を「人種、民族、宗教または国籍」を理由に暴力や差別への扇動を処罰という用語へ追加変更。

⭕️2番目の修正は、「負傷者の特に脆弱な状態」を定義する刑事手続法の第90条第4条に関するもの。現在、この条文には人種的憎悪に関する仕様のみが含まれている。
ザン法案は、「性別、性別、性的指向、または性同一性に基づく」という言葉を追加することを規定している。

⭕️最後の修正は、2003年7月9日の法令第215号、パリティに関するもので、肌の色や民族的出身に関係なく、性的指向や性同一性に関連する差別を防止し、これに対抗するためのいくつかの対策を文言で追加する。ザン法案では10の記事で構成されており、そのうち最初の6つは犯罪分野に関するものであり、他の4つは差別を防止し闘うための積極的な行動を紹介していた。

si.jpg第1条、法律の違憲の可能性を回避するために、憲法委員会によって提案されているように、性別、性別、性的指向、性同一性という用語を導入および定義している。

si.jpg第2条、人間の尊厳の尊重と平等の原則を保護することを目的とした、刑法第604条の2のヘイトクライムの内容の動機の中に、性別、性的指向、性同一性、および障害を置いている。特に、性別、性的指向、性同一性、または障害に基づく差別行為を扇動した者には、最高6000ユーロの罰金または最高1年6か月の懲役が科せられる。暴力行為を扇動したり犯したりする人にとっては、同じ理由によ利、6か月から4年までの懲役。

si.jpg第3条、刑法第604条の改正により、被害者の性別、性的指向、性同一性、または障害を理由に犯罪を犯す状況を悪化させるものとして定める。

si.jpg第4条、言論の自由を保護するために意見と選択の自由を保護することに専念し、「信念や意見の自由な表現、ならびにアイデアの多元性または選択の自由に起因する正当な行為」は、それらが適切でない場合には留保される。差別的または暴力的な行為を行うことの具体的な危険性を判断する。 つまり、表現の自由は、決して憎しみや暴力への煽動であってはならない。

si.jpg第5条、主に第604-bis条および604-ter条によって提供される罰則に関して、特定の事項を考慮する。
si.jpg第6条、「被害者が特に脆弱な状態」を定義した刑事手続きコードの第90条の変更と、女性とLGBTQ +の人々を「脆弱」で「被害者となる可能性のある人々」として認識していることを反映させる。

si.jpg第7条、ホモフォビア、レズビアン、バイフォビア、トランスフォビアを尊重し、包含と戦闘偏見や暴力の文化を促進するために、5月17日をナショナルデーとして制定するという日付の確立。

si.jpg第8条、国家反人種差別局に、差別の防止と闘いのための国家戦略を策定するよう指示している。

si.jpg第9条、権利と機会均等に関する政策のために400万ユーロの基金を設立し、差別に反対するセンターを設立する。

si.jpg第10条、 I'statは、少なくとも3年ごとに、差別と暴力行為の状態を説明するための調査を実施する。これにより、法執行方針を考え、実施するための基礎として機能させる。

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民主党のアレッサンドロ・ザン副議員の名前からとった別名「ザン法」に対する以上の法案が
2020年11月4日にイタリア下院で可決された。成立するには上院を通過する必要がある。

しかし、ここで、バチカンが動き自体が一転した。

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バチカン 国務省は6月17日、イタリア大使に非公式文書を送付し、ザン法案に強く抗議した。バチカンは、法案の第1条と第7条を修正し、第4条を完全に廃止することを提案してきた。


1929年にイタリア王国と締結したラテラノ条約で確保された「信仰の自由を抑制するもの」であると主張していた。バチカンはこれまで、教会がイタリアの法律の改正などに関し、外交ルートを介して文句を言ってくることなど歴史上一度もなかったが、今回は異例中の異例だという。バチカンが、どうしても黙っていられなくなったようだ。

その後、法案の最初の署名者である民主党のアレッサンドロ・ザン氏は、宗教的検閲につながることはないと主張した。

Noo.jpgこの度、ザン法案は、賛成154名、反対131名、棄権2名。秘密投票による投票の結果、否決された。

| 上院で否決されたわけと争点

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no.jpgイタリア・ヴィヴァは、ザン法案の第1条の元の文言は 、刑法の第604条の2および第604条に、「性別、性的指向または性同一性または障害に基づく」差別犯罪を追加することを求めているが、「同性愛嫌悪またはトランスフォビアに基づく」としか読めない。このように、文言は生物学的性別または障害の状態に関連する理由で差別された人に対する保護の範囲を失うだけでなく、すべての極端を正しく定義しないことがルールを不正確にしていると言っている。

no.jpg上院の司法委員会の書記である民主党の上院議員モニカ・シリンナは、性同一性の保護を除いて、この変更は 「刑法の強制原則とは対照的」であると言っている。


4条.png

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no.jpgイタリア・ヴィヴァによると、 このステップは抑制できるから要らない。なぜなら、表現の自由の保護はすでに憲法によって規定されているから重複している。また、第4条は、逆にカトリックのコミュニティの表現の自由を制限する可能性がある。

7条.png

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この第7条がバチカンが最も嫌い、争われているものの1つであり、州と教会の間の"コンコルダートに違反している"と引用し、権利を主張しているものの1つである。
no.jpgこの条項は、同性愛嫌悪、レズボフォビア、バイフォビア、トランスフォビアに対する国民の日 (国際的なものがすでに施行されているのと同じ日)を5月17日に確立することを提案し、それを学校と行政も尊重し、包摂して偏見と暴力に対抗するように位置付けるものであるので、そんな国際記念デーは要らないと言っている。

no.jpg北部同盟(レーガ)は、これを避けるために7条を削除するべきだと言っている。理由は、 「子どもの関与」を容認できない。 教皇庁のためでもある。それは、例えば、私立カトリック学校をこの日の活動の組織化から免除されない事が起こり得る。これによってカトリックコミュニティの自治が制限されてしまうと言っている。

no.jpgイタリア・ヴィヴァは、それに続き、「完全な学問的自律性に準拠して」という文言を条文に挿入することを提案した。これにより、教育機関は、その日にメッセージ内容の認識を高めるための活動に参加するかどうかを自由に決めることができるだろうと修正案を出した。

| カトリック教会のカテキズムとは

同性愛行為は自然法に反し、性行為を生命の恵みから遠ざけるものである。またこれは真正の感情的・性的相補性から生じたものではない。これはいかなる条件下においても容認されない。

キリスト教では「人間の性の相互補完性、すなわち異なる者が結合するという性格を神の意思であると認め、同性間の性行為はこの枠組みから外れるものとする。」となっているためである。

ローマ・カトリックの総本山バチカン(ローマ王法王庁)のお膝元であるイタリアでは、同性愛行為は自然法に反する罪深いものとする教えである。

Noo.jpg現在のカトリック教義では、同性愛は「教義から逸脱した行為であり罪」

イタリア政府が同性婚や同性間のパートナー関係を認めないのはそのせいであり、保守派は同性婚についてはかなり根強い抵抗と反対をしている。
宗教的な価値観と伝統的な家族像を持つのが理想であり、文化だという国がイタリア。
欧州主要国で唯一同性カップルの法的権利を認めていないのもイタリアである。


| シビル・ユニオン法可決

しかし、近年、家族の形態や伝統的な家族像も時代と共に多様化され、様々な「家族」が存在している。
2016年には、同性カップルに結婚に準じた権利を認める「シビル・ユニオン」法なるものが、議会で、信任投票は369対193の賛成多数で可決された。
同性カップルは、姓の共有、相続権、病院における面会権、医療における決定権などが認められた法律である。当初は、この法案には同性カップルの養子縁組の権利も法案に含まれていたが、カトリック宗教団体と右派の強い反対により却下、同性カップルがパートナーの子どもを養子にできるとした条項と同性カップルが互いに貞節であることを義務付けた条項の部分を削除し、修正して法案を通過させた。

法案は通ったものの、「同性カップルの子どもたちの存在や需要を完全に無視していると」と、同性愛者人権団体(約30団体)から不満と怒りの声が一斉に上がった。


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ローマ・カトリックとしては、表向きではLGBTの人たちに対して、「存在は認める」「差別や排除はしない、あくまでも寄り添うことを重視する」というスタンスを表明したが、はっきりと「同性婚は祝福できない」との見解を公式発表している。

LGBTIの権利に関しては、欧州基本権機関(Fra)が発表したレポート では、インタビュー対象者によると、イタリアは差別指数が19%で、最も高い指数でナンバーワンの国である。
イタリアには憎悪と差別を禁止する法律がないことを示している。
EU諸外国、フランス、スペイン、ドイツなど、ほとんどすべてのEU加盟国にはLGBTIに対して憎悪と差別を禁止する法律が存在している。

| 妊娠中絶の合法化

隣国のサンマリノでは、妊娠中絶の合法化の是非を問う国民投票が実施された。
妊娠12週まで中絶を認める動議への賛成が77.3%で可決された。この出来事は、なんと、つい最近の2021年9月のことであるから驚きである。

イタリアにおいては、その昔、堕胎罪なるものも存在していた。
妊娠中絶は殺人罪の一種であり、承諾を得ず堕胎を生じさせた者は7年以上12年以下の懲役刑。承諾を得ていても堕胎を生じさせたものは、2年以上5年以下の懲役に処するなど、厳重に処罰されてきた。
現在は、妊娠初期の90日以内の妊婦の自由意思で中絶を行うことを認めた

si.jpg妊娠中絶法が1978年5月22日に施行され合法である。

もっと遡れば、カトリックでは避妊も禁止されていた。

si.jpg避妊方法の情報提供ができるようになった避妊法は1971年に

si.jpgそして離婚の合法化は1974年、そして人工妊娠中絶の合法化は1978年に

・・・という流れである。
というのも、1970年代初頭に興った女性解放運動のおかげでイタリアでは女性の権利が少しずつ与えられ、認められるようになったからで、何ともスローで時代遅れ、ガチガチのカトリックカテキズムに女性がどれほど苦しめられていたかが伺える黒歴史である。

ヨーロッパ全体で見てみると、若者を中心に宗教離れが明らかで、カトリック教会の影響力というものは近年弱まりつつある。

厳しい教義への反動もあり、妊娠中絶や同性婚合法化、LGBT擁護の政治的動きが活発になってきているイタリア。本日もローマのコロッセオで大きなデモ:多くのLGBTの施設が密集しているため"ゲイストリート"と呼ばれているサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ通りで何百もの無許可の抗議デモが行われた。ミラノでは、センピオーネ公園広場に何千人もの人が集まり、1万個のライトを点灯してザン法案の否決について「落胆した、私たちの声が揉み消された。」と抗議していた。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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