コラム

ディズニー恐るべし、『アラジンと魔法のランプ』は本当は中東じゃないのに

2019年11月27日(水)16時40分

1953年にカイロで出版された『アラジンと魔法のランプ』の挿絵

<少し前、カナダのトルドー首相の昔の「黒塗り」写真が問題になった。『アラジンと魔法のランプ』の主人公アラジンに扮した写真だったが、実はこの話、お世辞にも由緒正しいアラブ文学とはいいがたい>

もう20年以上昔の話である。クウェートに住んでいた友人のパレスチナ人と話をしているとき、白人や黄色人種といった言葉が話題になった。

そのとき、アラブ人は有色人種なのか、白人なのか、有色人種なら何色なのかという議論となり、そのパレスチナ人は、アラブ人は形質人類学的にいえば、いわゆる白人と同じコーカソイドであるが、肌の色としては有色人種であり、色は茶色であると主張した。20年以上昔のことなので、ポリティカル・コレクトネスの考えかたも希薄で、こちらもふーん、そうなんだと適当に相槌をうっていた記憶がある。

なんでこんな話を突然思い出したかというと、これまたちょっとまえの話で申し訳ないが、カナダのジャスティン・トルドー首相をめぐる騒動がきっかけである。

2001年、彼がまだウェスト・ポイント・グレイ・アカデミーという学校の教師だったとき、その年の卒業アルバムにアラビアンナイトの扮装をした彼の写真が掲載され、それを今年の9月になってタイム誌が人種差別ではないかと記事で取り上げたのが、世界中で大騒ぎになったのだ。

タイム誌の記事をみると、この写真は、その学校で開催されたアラビアンナイトをテーマにしたパーティーのときに撮られたとのこと。たしかに、写真に写っている学生や教師らしき人たちも揃ってアラブ風の衣装を身にまとっている。

問題になったのは、トルドーが、あるいはトルドーだけが、派手な飾りのついたターバンを頭にかぶり、顔や手を黒く塗っていた点である。とくに顔や手を黒塗りにした点が、少なくとも現代の基準でいえば、人種差別になるとされたわけだ。元の写真が白黒なので、はっきりわからないが、一部の報道では茶色ではなく、黒く塗ったともいわれている。タイム誌の報道をみるかぎり、トルドー首相の顔はかなり黒くなっており、茶色く塗ったにしても、相当濃い色だったことがうかがえる。

いっしょに写っている女子学生たちには顔を黒く塗ったものはおらず、単にベールらしきものなどアラブ風の服装をしているにすぎない。教師としてかなり張り切ってしまったのか、トルドー首相の突出ぶりが悪目立ちしている。

とくにトルドーは、単に若くてハンサムというだけでなく、多様性を重視する人権派として知られている。国内のLGBTなど性的マイノリティーや女性、先住民への支援を主張するだけでなく、他国の人権問題でも積極的に発言をしていただけに、この事件はなおさらに彼の評判を落とす結果となった。彼が、サウジアラビアやフィリピン、中国などの人権状況を厳しく批判し、これらの国を激怒させたのを覚えている人も少なくないだろう。

上に紹介した事件が発覚したとき、カナダは1か月後に総選挙をひかえており、しかもトルドー首相自身が女性の司法長官や閣僚らに圧力をかけたとの批判に晒され、厳しい選挙戦を強いられていた。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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