コラム

イギリスで拡大する「持ち家」階級格差

2021年08月31日(火)14時40分

住宅を持てるイギリス人と持たざるイギリス人の格差は大きい Nirian/iStock.

<ここ20年以上、イギリスの住宅価格は信じられないほどに上がり続け、新たに家を購入するのは日々難しくなっている。単なる経済格差だけではなく世代間格差も発生し、社会の分断の原因に>

イギリスのトニー・ブレア首相(当時)はかつて、政権の優先事項は「教育、教育、教育だ」と言った。くどい言い回しにはイラついたが、彼の意図するところは理解できた。教育の向上はおおむね全てのイギリス人が支持する政策であり、票を稼げるのだ。さて、ブレアっぽいと思われるのを承知で言うなら、現在イギリスが直面する最大の社会的問題は、「住宅、住宅、住宅だ」。

イギリスはここ20年以上「住宅危機」の渦中にあり、改善することは一度もなく悪化する一方に見える。住宅価格は信じられないほどに上がったから、ついに限界点に達したに違いないと思ったことが2度もあった。そんな僕の考えは誤っていただけでなく、とんでもない誤りだった。過去1年だけでも、イングランドの住宅価格は(既にとてつもなく高かった水準から)13.3%も上昇したのだ。

このおかげで僕は以前よりリッチになった。住宅を所有しているからであり、これは日々、僕の出費を上回るほどの価格上昇を続けている。事実上、僕はここに住みながら利益を受けている。問題はこの状況が、持ち家がなくマイホームを夢見る人々を完全に不利な立場に追い込んでいるという点だ。マイホームを手に入れようと思ったら、今ではごく一般的な戸建てでも以前より3万~5万ポンドを余計に払わなければならない。僕の利益は彼らの損失であり、率直に言えば僕はこの不労資産に気まずさを覚えている。

だから、住宅問題は大勝利者と大敗北者で大きく分断されている。「家持ち」のイギリス人勢が悠々と、物事は大概うまく回っていると思っている一方で、「家なし」のイギリス人勢は、お先真っ暗だと感じている。これは貧富の格差というだけでなく、世代間格差でもある。2002年より前に住宅を手にしていた人は皆、長期の不動産ブームに乗ってきた。対する現在の20代や30そこそこの人々は、いつになっても「持ち家階級」入りできなくなっている。

僕はこの2つの世代の中間にいる。2000年代の黄金期は逃したし、国外に暮らしながらイギリスの不動産価格の急激な上昇を戦々恐々と見守っていたことを今でも覚えている。帰国してなんとか家を買えた10年前から、この恩恵に浴しているというわけだ。

今の若者と話をすると、思っているほどこの状況に怒ってはいない様子。十分怒りは感じているようだが、かといって自分では変えられない状況に絶えず憤慨し続けるのはただ疲れるばかりだ。彼らの多くが賃貸物件生活から抜け出せないので、自分たちを「賃貸世代」と呼んでいるが、その賃貸物件も往々にして、持ち家の資産価値上昇を利用して年配世代が購入したセカンドハウスだったりする。住宅価格高騰はあまりにも長期に及ぶ問題だから、もはや人々は話題にもしない。イギリスの冬に、薄暗いのや雨続きなのをいつまでも話題にしないのと同じだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。アドレスはjhbqd702@yahoo.co.jp

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

物価巡り企業行動はかなりアクティブ、注目している=

ワールド

米ロ外相、ウクライナ問題を協議 「今日の解決見込ま

ビジネス

仏トタルエナジーズ、ミャンマー撤退を決定 人権状況

ワールド

NZ軍艦、トンガに到着 水など支援

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:2024年の全米動乱

2022年1月25日号(1/18発売)

次期大統領選で再びトランプが敗北すれば、100万人規模の怒れるアメリカ人が武装蜂起するリスクが

人気ランキング

  • 1

    1000年に1度のトンガ大噴火、これでは終わらない可能性

  • 2

    知ってた? 太陽系は「巨大な泡」の真ん中に浮かんでいる 3次元でマップ化

  • 3

    おまけ狙いの爆買い男性に106食分を売った中国ケンタッキー、当局から正式に怒られる

  • 4

    消えた陸地、火山灰に覆われた滑走路... 衛星写真で…

  • 5

    オタク活動に注意? 芸能人を好きになり過ぎると「知…

  • 6

    飼い主に高速連続パンチを見舞う子猫 ネット民から…

  • 7

    日本の元セクシー女優、フィリピンに遊びに行ったら…

  • 8

    コロナ感染で男性器の「サイズが縮小」との報告が相…

  • 9

    北京五輪には自前のスマホを持ち込むな、米加が選手…

  • 10

    北京五輪参加者に忍び寄る肛門PCR強制の恐怖

  • 1

    外国人同士が「目配せ」する、日本人には言いづらい「本音」

  • 2

    コロナ感染で男性器の「サイズが縮小」との報告が相次ぐ、「一生このまま」と医師

  • 3

    ブタの心臓を受けた男に傷害の前科──「もっとふさわしい人にあげて欲しかった」と、被害者の遺族は言う

  • 4

    1000年に1度のトンガ大噴火、これでは終わらない可…

  • 5

    早老症のユーチューバーが15歳で死去

  • 6

    米人気モデル、「露出し過ぎ」な服装で空港に現れて…

  • 7

    通りすがりの女性に救われた子猫は「とんでもない場…

  • 8

    英スーパー、ソーセージを成人用として販売 客は年…

  • 9

    動物界一の酒豪、ハムスターの強さは別格

  • 10

    知ってた? 太陽系は「巨大な泡」の真ん中に浮かん…

  • 1

    飛行中のステルス爆撃機が「グーグルマップ」に映り込んでいた

  • 2

    外国人同士が「目配せ」する、日本人には言いづらい「本音」

  • 3

    コロナ感染で男性器の「サイズが縮小」との報告が相次ぐ、「一生このまま」と医師

  • 4

    空手がアラブで200万人に広まったのは、呑んだくれ日…

  • 5

    ブタの心臓を受けた男に傷害の前科──「もっとふさわ…

  • 6

    日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援…

  • 7

    1000年に1度のトンガ大噴火、これでは終わらない可…

  • 8

    早老症のユーチューバーが15歳で死去

  • 9

    「賃貸か、持ち家か」議論の答えは出ている

  • 10

    米人気モデル、「露出し過ぎ」な服装で空港に現れて…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中