コラム

「さざ波」どころではない日本のコロナ患者数 ワクチン展開でインド変異株から逃げ切れるか

2021年05月25日(火)19時52分
5月24日、東京の大規模接種センター開設

日本でもようやく大規模ワクチン接種が始まったが(5月24日、東京の大規模接種センター開設) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<菅首相のワクチン戦略がうまくいっても、感染の出口が見えるのは8月に入ってからか>

[ロンドン発]米国務省は24日、日本への渡航について4段階の中で最も厳しいレベル4(中止勧告)に引き上げた。米国疾病予防管理センター(CDC)はやむを得ず渡航しなければならない場合は渡航前のワクチン接種完了を呼びかける一方で、ワクチンの効果を弱める変異株への懸念から日本への渡航はすべて避けるよう勧告している。

各国の感染者数を比較したグラフを添えて「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」とツイートした高橋洋一・嘉悦大教授が同日、内閣官房参与を引責辞任した。しかし五輪開催は可能と考えているのは高橋氏だけではない。国際オリンピック委員会(IOC)や米オリンピック委員会、菅政権の決意も揺るがない。

入院患者数で深刻さを比較すると

日本のPCR検査数は限られているので感染者数で比べることはできない。コロナ患者を病院に受け入れる基準が国によって異なるので入院患者数で比較するのも難しいが、厚生労働省の入院治療等を要する者の数と英オックスフォード大学の統計サイト「データで見た私たちの世界(Our World in Data)」の入院患者数を比べるグラフを作ってみた。

HOSPITAL.jpeg

日本の重症患者数が少ないのは集中治療室(ICU)の病床数が限られているからだ。旧共産圏諸国や最悪期の英国民医療サービス(NHS)のように受け入れるコロナ患者数を伸縮自在に増やせば入院患者は必然的に増える。しかし酸素吸入が必要でも気管挿管をしなくて済む患者は自宅療養させるオランダのような国では入院患者は低く抑えられる。

日本では入院は必要でないと判断されると、家族への感染リスクの有無などを基準に宿泊療養か自宅療養に振り分けられる。しかしコロナ病床が逼迫する大阪府では宿泊療養ホテルに酸素機器の配備を開始している。呼吸障害が出ているのに酸素吸入が遅れると全身状態がさらに悪くなって容態が急変する恐れがあるからだ。

朝日新聞のルポ「危機の大阪、夜を駆ける往診医 自宅療養1万人超の衝撃」では血中酸素濃度が69~79%まで下がった自宅療養中の60代男性が何とか入院できる話が出てくる。これは尋常ではない事態である。正常値は96%以上とされ、英NHSは2回測定していずれも92%以下だったらすぐに病院の救急外来に駆け込めとアドバイスしていた。

「新聞うずみ火」(矢野宏代表)にはPCR検査で陽性が判明しても自宅待機を余儀なくされ、1週間後にようやく入院できたものの亡くなった74歳の男性の話が紹介されている。自宅待機中に容態が急変し、亡くなるケースも少なくない。大阪府や兵庫県ではクラスターが発生した高齢者施設で入院できないまま入所者が死亡する例も目立っている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

アングル:気候変動対策で企業が出張削減、対応迫られ

ワールド

アフガン南部のモスクで自爆攻撃、ISが犯行声明 3

ワールド

焦点:韓国と北朝鮮の「軍拡最前線」、兵器展示会でつ

ビジネス

米国株式市場=続伸、ゴールドマン決算を好感 ダウは

MAGAZINE

特集:ドキュメント 中国撤退

2021年10月19日号(10/12発売)

規制と圧力、そして始まる新・文化大革命 見切りをつけた外国企業にいよいよ撤退の兆し?

人気ランキング

  • 1

    緑地、易居、花様年、当代置業......中国・恒大集団発の不動産ドミノが始まった

  • 2

    銀河系の中心方向から謎の電波源が検出される

  • 3

    なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を歴史で読み解く

  • 4

    防犯カメラが捉えた「あわや」の瞬間 深夜帰宅の女…

  • 5

    地球はこの20年で、薄暗い星になってきていた──太陽…

  • 6

    再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまった…

  • 7

    ピアニスト辻󠄀井伸行さんインタビュー…

  • 8

    観測されない「何か」が、太陽系に最も近いヒアデス…

  • 9

    カーク船長の宇宙飛行に黒い疑惑──生命を尊重する『…

  • 10

    「ナチュラルすぎる自撮り」で人気者のゴリラ、親友…

  • 1

    地球はこの20年で、薄暗い星になってきていた──太陽光の反射が低下

  • 2

    なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を歴史で読み解く

  • 3

    モデルナ製ワクチンで重い副反応を経験した大江千里が、それでも3回目を接種する理由

  • 4

    「ナチュラルすぎる自撮り」で人気者のゴリラ、親友…

  • 5

    中国進出の日本企業は、極めて苦しい立場に立たされ…

  • 6

    「ワクチン反対」の投稿をきっぱりやめ、自身も接種…

  • 7

    中国バブルは崩壊する、だがそれは日本人が思うバブ…

  • 8

    防犯カメラが捉えた「あわや」の瞬間 深夜帰宅の女…

  • 9

    銀河系の中心方向から謎の電波源が検出される

  • 10

    緑地、易居、花様年、当代置業......中国・恒大集団…

  • 1

    薄すぎる生地で体が透ける! カイリー・ジェンナーの水着ブランドが炎上

  • 2

    中国バブルは崩壊する、だがそれは日本人が思うバブル崩壊ではない

  • 3

    イギリス人から見た日本のプリンセスの「追放劇」

  • 4

    中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリ…

  • 5

    イチャモン韓国に、ジョークでやり返す

  • 6

    【独占インタビュー】マドン監督が語る大谷翔平「や…

  • 7

    アイドルの中国進出が活発だったが、もう中国からは…

  • 8

    地球はこの20年で、薄暗い星になってきていた──太陽…

  • 9

    なぜ中台の緊張はここまで強まったのか? 台湾情勢を…

  • 10

    「ナチュラルすぎる自撮り」で人気者のゴリラ、親友…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中