コラム

「アフリカの星」はなぜ凋落したか──エチオピア内戦と中国の影

2021年11月05日(金)14時30分

ティグレ人が中枢を握る政府でオロモ人は風下に立たされやすく、なかにはオロミア州の分離独立を目指す過激な一派も現れた。ティグレ中心の政府はこれを「テロリスト」とみなして苛烈な取り締まりを行なったが、それはオロモ人の不満をさらに強めただけでなく、それ以外の民族からも不信感を招いた。

そのため2018年、それまでティグレ出身者に握られてきた首相ポストにオロモ出身のアビー首相が就任することで民族の融和が図られた。民族間の緊張緩和が進められたことで、アビー首相は2019年にノーベル平和賞を受賞した。

しかし、その後のエチオピア政府ではティグレとオロモの力関係が逆転し、それまで権力の中心にいたティグレは相次いで要職を追われた。対立がエスカレートするなかで昨年11月、かつて「テロリスト」として弾圧され、今や政府を握るオロモが、かつての主流派TPLFを逆に「テロリスト」と断定して衝突するに至った。戦闘が激化し、内戦が全土に広がったことで、「アフリカの星」は輝きを失ったのである。

エチオピア内戦に頭を悩ます中国

ところで、エチオピア内戦に強い関心を持たざるを得ないのが中国だ。

エチオピアは中国にとって重要な進出拠点の一つだ。2018年に開通した、エチオピアの首都アディスアベバと隣国ジブチと結ぶ、約760kmに及ぶ高速鉄道は、その象徴である。その中国にとって、エチオピア内戦は頭の痛い問題でもある。

「極度の野蛮行為」の横行を受け、アメリカは貿易上の優遇措置を停止するなど、エチオピアへの制裁を徐々に進めている。これに対して、エチオピア政府は欧米が根拠のない「虐殺」を宣伝しているだけでなく、TPLFを支援していると非難しており、9月にはアビー首相がバイデン大統領に公開書簡を送って抗議した。

エチオピア政府を支持する中国も、「内政干渉」に当たると制裁に反対している。しかし、その建前とは裏腹に、中国はエチオピアの内政に誰より深くかかわってきた。

中国とエチオピア政府の付き合いは深く、現在の与党EPRDFが1991年、それまで続いた内戦に勝利して権力を握った時にも中国から軍事援助を受けていた。それ以降、エチオピア政府は欧米や日本とも良好な関係を築きながら、その一方で中国と深い関係を保ち続けた。

ただし、中国は常に「政府」との関係を優先させてきたため、エチオピア政府内の力関係に応じてパートナーが変わることになった。ティグレ系TPLFが政府を握っていた間は、オロモを迫害するTPLFに協力的だった。ところが、権力闘争に敗れたティグレが「都落ち」すると、今度はオロモ中心の政府との関係強化に努めた。

こうした「乗り換え」は、外交の冷たい現実や内政不干渉の原則からすれば当然ともいえるが、少なくとも結果的には積年のパートナー、ティグレを見捨てるものでもある。ティグレ州でTPLFを攻撃するエチオピア軍は中国から軍事援助を受けているが、軍用ドローン「飛龍」まで調達しているともいわれる。

つまり、中国はエチオピア政府を擁護せざるを得ないが、それは欧米との対立を招くだけではない。状況によってかつてのパートナーを見限るその姿勢が浮き彫りになれば、アフリカにおける評判にもかかわる。

その意味では、エチオピア政府への批判を強める欧米とは立場が異なるものの、エチオピア内戦の早期解決を願っている点では中国も変わらないといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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