コラム

トランプを支持し続ける共和党が象徴する「民主主義の黄昏」

2021年03月09日(火)17時00分

先月フロリダ州で開催された保守系政治団体の会合で演説するトランプ Joe Skipper-REUTERS

<なぜ民主主義は常に不安定で、独裁主義へと向かおうとするのか>

2021年1月6日、上下両院合同会議でバイデンの大統領選出の手続きが行われている連邦議会の議事堂にトランプ支持者が乱入し、警官1人を含む5人が死亡した。その後、自殺した警官もいる。民主党がマジョリティーの下院議会は、議会襲撃事件で「反乱を扇動した」としてトランプの弾劾訴追を決議した。二度も弾劾訴追された大統領はアメリカ史上初めてだ。結果的に上院議会はトランプに再び無罪判決を与えた。

トランプに不満を懐きながらも支持してきた伝統的な共和党の重鎮にとって、トランプがツイッターから永久に追放され、大統領の座を失ったのは、自分たちがコントロールできない「目の上のたんこぶ」を排除するチャンスだった。しかしながら、トランプ弾劾を支持した勇気ある共和党議員は少数派であり、支持者たちから攻撃されることになった。一方で、トランプは自分の党を作ることをほのめかすようになった。

このような状況の2月にサフォーク大学とUSAトゥデイは世論調査を行い、大統領選でトランプに票を投じた人に「トランプが第3党(新政党)を作ったらどちらを支持するか?」と質問した。それに対し、「共和党」と答えたのはたったの27%で、「トランプ党」と答えたのは46%もあった。保守系政治団体の保守政治活動会議(CPAC)のイベントがフロリダで2月末に行われたが、そのスターはトランプだった。そして、議会襲撃事件でトランプを批判したミッチ・マコネル(2021年1月まで上院多数党院内総務)すら、2024年の大統領選挙でトランプが予備選に勝ったら支持する姿勢を明らかにした。

国民に偽りを広めて民主主義を徹底的に傷つけ、自分の支持者に国の議会を襲撃させた大統領を、共和党はいまだに支持しているのである。つまり、トランプの危険性を知りながらも、彼のパワーを利用し続ける決意をしたのだ。

こういった不穏な状況を見事に解説するのが Anne Applebaum の『Twilight of Democracy(民主主義の黄昏)』である。去年発売されたときに話題になっていたのだが、読み逃していた。最近になって読み、2021年現在でも非常に重要な本だと感じた。2020年の大統領選挙でトランプが落選したことで、すべてが解決したのではない。民主主義はいまだに危機状態にある。

作者の Anne Applebaum は先祖がベラルーシからアメリカに移住したユダヤ系アメリカ人で、イェール大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス、オックスフォード大学などで学び、ソビエト連邦時代のレニングラードに滞在したこともある。ソビエト連邦のグラグ(強制収容所)の歴史を描いたノンフィクション『Glug』で2004年にピューリッツァー賞を受賞した著名なジャーナリストだ。

ポーランド人の夫Radek Sikorskiは、2005年から2007年までポーランドの国防大臣、2007年から2014年まで外務大臣を務めており、本人もアメリカとポーランドの二重国籍を持っている。

政治的に分断されたポーランド

ポーランドは、第二次世界大戦後にソビエト連邦の支配下になり、一党独裁制でソ連にとって最も重要な衛星国になった。ソ連が支配する体制に対して市民の反対運動が高まり、総選挙で民主主義国家になったのは1989年のことだった。

本書『Twilight of Democracy』は、1999年に著者夫妻がポーランドで開いた大晦日のパーティーから始まる。この頃には、ポーランドではまだ「民主主義」は新しいものだった。夫妻の仕事が仕事なだけに、ゲストも多様だった。ロンドン、モスクワ、ニューヨークから駆け付けたジャーナリストの友人、当時の中道右寄りの政権下での夫の外務省の同僚たち、ポーランドの若いジャーナリストたち、といった顔ぶれだった。

そこにいた大部分の人は、ポーランドで「右寄り」とみなされるカテゴリに属していたが、たいていは、その時点で「リベラル」とも呼べる人たちだった。自由市場リベラル、伝統的リベラル、サッチャライト(英国のサッチャー首相の経済政策支持者)と多様な立場だったが、全員が「民主主義」と「法の支配」を信じていた。ポーランドは1999年にNATOに、2004年にEUに加盟した。その方向を信じるのが、当時のポーランドでは「右寄り」だったのだ。

まだポーランドは貧しかったので、豪華な食べ物もない。ホテルもないので、100人ほどの客は近所の農家や友達の家に泊まるしかなかった。けれども、その場に満ちていたのは、「ポーランドを築き直す」楽観性であり、民主主義を信じることで一致していた。

ところが、20年後の今、このパーティーで将来への希望を語り合った参加者の半分は、残りの半分と口もきかない状態になっている。個人的な諍いが原因ではない。現在のポーランドが政治的に分断された国になってしまったからだ。多くのことに同感していたはずの人々の半分は、現在では外国嫌いで独裁主義的になっている。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

ニュース速報

ビジネス

超長期金利、過度な低下の悪影響意識して政策運営=黒

ワールド

原油先物は反落、インドのコロナ危機巡る懸念で

ワールド

米コロニアルのパイプライン再稼働、供給不安でパニッ

ワールド

米アマゾン、2.5億ユーロの追徴課税巡りEU裁で勝

MAGAZINE

特集:新章の日米同盟

2021年5月18日号(5/11発売)

台頭する中国の陰で「同盟国の長」となる日本に課せられた新たな重い責務

人気ランキング

  • 1

    日本経済、低迷の元凶は日本人の意地悪さか 大阪大学などの研究で判明

  • 2

    金正恩が指揮者を公開処刑、銃弾90発──韓国紙報道

  • 3

    横溝正史、江戸川乱歩...... 日本の本格推理小説、英米で静かなブーム

  • 4

    孤独を好み、孤独に強い......日本人は「孤独耐性」…

  • 5

    バブルを生きた元証券ウーマンが振り返る日経平均の3…

  • 6

    天才実業家イーロン・マスクの奇想天外な恋

  • 7

    元気過ぎるトランプの現在...韓国など同盟国を攻撃し…

  • 8

    インドで新型コロナ患者が、真菌感染症(ムコール症…

  • 9

    【動画】ゲームにあらず、降り注ぐロケット弾を正確…

  • 10

    ノーマスクの野外パーティー鎮圧 放水銃で吹き飛ば…

  • 1

    オーストラリアで囁かれ始めた対中好戦論

  • 2

    メーガン妃を誕生日写真から「外した」チャールズ皇太子に賛否...「彼女に失礼」「ごく普通」

  • 3

    かわいい赤ちゃんの「怖すぎる」声に、両親もスタジオも爆笑

  • 4

    パリス・ヒルトン、ネットで有名なセクシー「パーテ…

  • 5

    ノーマスクの野外パーティー鎮圧 放水銃で吹き飛ば…

  • 6

    日本経済、低迷の元凶は日本人の意地悪さか 大阪大…

  • 7

    プロポーズを断っただけなのに...あまりに理不尽に殺…

  • 8

    話題の脂肪燃焼トレーニング「HIIT(ヒット)」は、心…

  • 9

    金正恩が指揮者を公開処刑、銃弾90発──韓国紙報道

  • 10

    新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」…

  • 1

    メーガン・マークル、今度は「抱っこの仕方」に総ツッコミ 「赤ちゃん大丈夫?」「あり得ない」

  • 2

    「お金が貯まらない家庭の玄関先でよく見かける」1億円貯まる人は置かない『あるもの』とは

  • 3

    オーストラリアで囁かれ始めた対中好戦論

  • 4

    親日家女性の痛ましすぎる死──「日本は安全な国だと…

  • 5

    メーガン妃を誕生日写真から「外した」チャールズ皇…

  • 6

    ヘンリー王子、イギリス帰国で心境に変化...メーガン…

  • 7

    韓国、学生は原発処理水放出に断髪で抗議、専門機関…

  • 8

    ビットコインバブルは2021年ほぼ間違いなく崩壊する

  • 9

    知らない女が毎日家にやってくる──「介護される側」…

  • 10

    脳の2割を失い女王に昇格 インドクワガタアリの驚く…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中