コラム

不可能と思われた「DX」にワシントンポスト紙が成功した理由

2020年10月23日(金)13時55分



ワシントンポストは上場していないので詳しい情報は公開されていないが、Saldanha氏によると、ワシントンポストのDXは間違いなくこれらの要素を満たしているという。

MTP(Massive Transformative Purpose)とは、「トランスフォーメーションの巨大な目的」という意味。通常のビジョンステートメントとは、スケールが異なる。人々をワクワクさせるような壮大な目的を掲げることが、DXには必要なのだという。

ワシントンポストのMTPは、「有力地方紙から有力全国紙になる」というようなものだったと推測される。紙ベースであれば、どれだけがんばっても地方紙でしかありえない。ところがオンラインであれば、国政が強みの全国紙になれる。ジリ貧の状態で気持ちも沈みがちだった同紙の従業員が、このMTPで士気が回復したであろうことは想像に難くない。そして実際に読者数で米国最大の全国紙ニューヨークタイムズを抜くまでに成長した。全国紙どころか、世界中に読者がいる有力ニュースサイトになったわけだ。

金銭的コミットメントを見せろ

スキンとは、経営者やオーナーが金銭的、時間的にコミットする状態を言う。ベゾス氏は買収金額2億5000万ドルに加え、さらにDX投資に自分のポケットマネー5000万ドルを投入したという。ベゾス氏はDXに本気度を見せたわけだ。

金は出すが、口は出さない。同氏は編集局の判断には一切口を出さずに、編集局に自由に活動させているという。記者たちにとっては理想的なオーナーなわけだ。

一方でDXには徹底的に関与した。技術関連の社員数はテック企業と比較しても引けを取らない規模で、また技術者はベゾス氏に直接連絡することが許されている。サイト運営の技術ノウハウは、Amazonで培ったノウハウを転用。世界一のECサイトの使い勝手のよさが、ワシントンポストのサイトでも実装されている。

Amazonはもともとは自社用に開発した技術を汎用化し、他社にライセンス提供することで有名だ。自分たちのためのクラウドコンピューティングの仕組みを他社向けに提供し始めたのが、AWSと呼ばれるクラウド・コンピューティング・サービス。AWSはAmazonにとって稼ぎ頭の1つになっている。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

マリウポリのウクライナ兵959人投降、米は大使館再

ワールド

今年のスペイン成長予想は4%前後に、中銀が下方修正

ビジネス

機械受注1─3月は前期比3.6減、非製造業に弱さ 

ビジネス

貿易収支、4月は9カ月連続の赤字 資源高で輸入過去

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:歴史で読み解くロシア超入門

2022年5月24日号(5/17発売)

ウクライナ侵攻で見せた不可解なほどの権威主義 政治・軍事・文化を貫くロシアの本質を歴史から理解する

人気ランキング

  • 1

    「心の準備が...」BTSジョングク、襟足の長い「80年代風」の髪型にイメチェン

  • 2

    「責任者を出せ!」コールセンター・スタッフに詰め寄るクレーマーに上司が放った爽快なひと言とは

  • 3

    『シン・ウルトラマン』を見て的中した不安

  • 4

    【戦況マップ】ロシア軍は数日でこれだけ占領地域を…

  • 5

    ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もう…

  • 6

    【映像】擬態したピューマと目が合ったハイカー、一…

  • 7

    動物園のアジアゾウ、溺れかけたアンテロープを救出…

  • 8

    100年ぶりの新しい細胞分裂様式「非合成分裂」は教科…

  • 9

    ロシア軍の最新戦車が破壊されたことが初めて確認さ…

  • 10

    BTSメンバーの「資産額」ランキング...1位のメンバー…

  • 1

    「責任者を出せ!」コールセンター・スタッフに詰め寄るクレーマーに上司が放った爽快なひと言とは

  • 2

    ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もうひとつの旧ソ連の国

  • 3

    【戦況マップ】ロシア軍は数日でこれだけ占領地域を失った

  • 4

    子供を解放し、母親も解放する日本の街──アメリカか…

  • 5

    「ウクライナを守る盾」、ロシア艦を撃沈した「ネプ…

  • 6

    「心の準備が...」BTSジョングク、襟足の長い「80年…

  • 7

    ウクライナ軍が使い始めた米M777榴弾砲の威力

  • 8

    【閲覧注意】廃屋の壁一面にうごめく数千匹のサソリ 

  • 9

    「ロゴさえあれば何でも買う」? 高級新作スニーカー…

  • 10

    【動画】ロシア巡洋艦「モスクワ」の「最期」

  • 1

    「責任者を出せ!」コールセンター・スタッフに詰め寄るクレーマーに上司が放った爽快なひと言とは

  • 2

    ウクライナのどさくさに紛れて「侵攻」を狙う、もうひとつの旧ソ連の国

  • 3

    【戦況マップ】ロシア軍は数日でこれだけ占領地域を失った

  • 4

    「どこなら女性は安全なのか」 インドで強姦被害の13…

  • 5

    プーチン病気説の決定打?どう見ても怪しい動画

  • 6

    子供を解放し、母親も解放する日本の街──アメリカか…

  • 7

    「性格と高齢期の認知障害には関連がある」との研究…

  • 8

    【映像】ショーの最中、荒れ狂うイルカがトレーナー…

  • 9

    「ウクライナを守る盾」、ロシア艦を撃沈した「ネプ…

  • 10

    【動画】ロシア巡洋艦「モスクワ」の「最期」

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版ウェブエディター募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中